去年の仕事の総括と、今年の仕事に向けての動向をまとめてみます。
この記事の目次
全体の総括
仕事に関して言えば総じて良い年だったと思います。しかし…言い換えれば仕事しかしていなかった 1年だったのではないか?と思ったりします。それはそれでどうなんだ? と思ったりもしますが、自分で決めた道なので、可能なうちは真摯に向き合っていこうと思います。
仕事をする上で一番の悩みはスケジューリングです。これまでそうでしたし、今後もずっとそうだと思います。
まだ駆け出しだった頃に教えられた事として「常に 7割の力で仕事をしなさい。そうしないといざという時に対応出来ない」という物があります。たまに思い起こしては実行しようとするのですが、これがなかなか難しく実現出来ていません。
2018年はとあるタイトルにて大きな迷惑をかけてしまったのですが、2019年は最低限の対応は出来たのではないかと思います。その点は改善出来たのではないかと思います。
仕事を請ける時は逆算して問題無いと判断した場合のみ請けるのですが、予定が変更になるタイトルが出てくる場合もあり、結果的に予定が複数重なってしまった…なんて事も珍しくは無いのです。
この部分は永遠のテーマで、仕事量といかに付き合っていくかが長く仕事を続ける上で重要だと思っています。
肝心の仕事の内容ですが 2019年も良い仕事に恵まれたと感謝しています。
特にヴィンランド・サガについてはオファーが来た時は胸が高まりました。1000年前の写真資料も当然残っていない時代の背景を創作する事が出来るというのはとても冒険的な事で、作業する立場から言わせてもらうとワクワクする物なのです。
また、これは身体的な事なのですが、目の疲労が顕著に表れるようになった事がとても気になっています。以前は 12時間以上絵を描いていても目が痛くなるという事はなかったのですが、最近は 6時間程度で疲労を感じるようになりました。
体力の低下や慢性的な腱鞘炎は想定内なのですが、目に関してはあまり考えていなかったため、今後対応していく必要がありそうです。
タイトル別
ヴィンランド・サガ (WIT STUDIO)
作業期間は2018年2月から2019年3月までの1年1ヶ月。2クール作品かつ難易度の高い仕事としてはかなり順調に作業は進み、結果的に放送から3ヶ月以上も前に全ての作業が終わるという予想外の結果となりました。
1000年前の時代設定という事もあり、オファーを受けた時は相当な苦労をすると予想しました。しかし、原作の絵作りがしっかりしていた事や膨大な資料のおかげでどうにか切り抜ける事が出来ました。
当時の写真や絵といった資料はありませんので、発掘された遺跡や調度品といった資料の多くを参考にしましています。
あまりリテイクが来なかったのは、自分の感性が作品にあっていたのか、それとも監督が気をきかせてくれたのかは分かりません。ただ、結果としてとても作業が楽しく原稿の出来も良いレベルで揃えられたのではないかと思います。
印象としては、雪のシーンが多かったという事です。雪は美術設定を描く上であまり描かない題材です。特にトルフィンの故郷は最初から雪に埋もれている状況だったため、最初は難儀しました。
一番気を使ったのは「地形」です。日本に住んでいるとどうしても”小さい島”の地形を想像してしまいがちですが、ヴィンランド・サガのアイスランドをはじめとした地形はダイナミックな物が多いのです。そこはハズさないように注意しました。
また、この作品の美術設定は 2人の分担作業となっていて、室内についてはイノセユキエさんが 3D で制作し、それ以外の部分については私が担当しました。
これは背景のモデルを用意する部分については、最初から 3D データで作ってしまおうというウィットさんの考えだと思います。
銀河英雄伝説 Die Neue These (プロダクションI.G)
オファーが来たのは確か 2015年後半で作業開始したのが 2016年年7月ですから細く長くやっていたものです。
先日、セカンドシーズンの「星乱」が劇場公開されようやく一区切りついた形となりました。
オファーが来る前に「銀英伝が再アニメ化されるらしい」というニュースは風の噂で聞いていました。旧作のファンでもあった自分にとって気になるニュースだったのですが、まさか巡り巡って自分に仕事が来る事になろうとは、業界狭いなと感じた瞬間でもありました。
銀英伝の美術設定のスタッフは 3人となっており 1作品に関わる人数としてはかなり多いものになっています。これには理由があり、銀英伝の世界観は膨大で広すぎるため、それならば地域でスタッフを分けてしまえば良いのでは? という観点からそうなったと聞いています。
ちなみに自分の担当は「フェザーン」と「地球」なのですが、これはスタッフとして加わったのが最後の 3人目だったから残っている場所を担当する事になった、という至極単純な理由です。
そのフェザーンのデザインの方向性ですが「同盟」「帝国」と比べて真新しい感じを意識しています。あまりゴツゴツしておらず、シャープで洗練された感じ…とイメージしているのですが、少なくとも同盟や帝国とは違うデザインに出来てはいると思います。
フェザーンで旧作と大きく異なる部分といえば軌道エレベーターの有無となります。Die Neue These にて軌道エレベータは存在しません。これは原作合わせとなる処置でして、旧作の軌道エレベータの存在はアニメオリジナルの設定なのです。
Fate/Grand Order (Clover works)
2019年末に7章「バビロニア」アニメ版に関する全ての作業を完了。2018年からの作業で延べ1年半の作業でした。
前半部分の作業は物量も多く手のかかる事も多かったのですが、中盤は舞台が出そろったため新規の発注は少なくなり、かなり落ち着きました。後半は戦闘が多くなる関係で戦闘ポイントを用意したり、破壊されたシーンを用意したりと戦闘がらみの作業が増えました。
作業自体はそこまで難題という事もなく、原作のイメージを軸に世界観を広げていくという普段通りの手法で進めました。そもそも原作絵がかなりファンタジーが入っているため、割と自由に描いています。原作の絵を生かせそうであれば生かす。無理そうであれば作るという感じですね。
例えば海の側にある観測所ですが、原作の室内絵はかなり簡素な物だったため、アニメ版では部屋を広くして演出上必要な物を配置しています。
また、原作絵の通りに描いたら原作側から NG が出るという謎の経験もしましたね。エリドゥの太陽神殿がソレなのですが、原作をプレイ済みな人は違いを見比べてみるとすぐ分かると思います。
FGO 原作背景の作業経験もあったため、アニメ版のオファーを頂いた時は不思議な縁もあるものだと思ったものです。
グリザイア・ファントムトリガー (バイブリーアニメーション)
TV 版グリザイアから引き続きの作業になりました。既に既存の設定はあるものの、大部分が新規の場所となるため 1話だけで 40枚以上の美術設定を描いています。
そもそも寮などは原作サイドの方で絵が変わっているため、全て新規での描き起こし。学校校舎の方はかろうじて使える部分がありましたが、メインの舞台となる場所も多々用意する事となりました。
印象としてはとにかく 1話の発注枚数が多かったという点につきます。TV シリーズの設定があまり使い回せなかったのは想定外でした。しかも案外…といっては何ですが 1枚辺りにかかる時間的コストが高い設定が多いのです。この点においては、原作側の新規背景がとても複雑でめんどくさい物が多いのが要因の1つです。
作業自体は割と正攻法の考え方で作業をしています。これは、グリザイア・ファントムトリガーの仕事の進め方として「設定よりも絵コンテ先行」というスタンスが関係しています。なので、絵コンテに適切な設定を用意していくという流れになっています。
アズールレーン (バイブリーアニメーション)
グリザイアと同じくバイブリーさん元請けの作品です。自分は1社から2作品以上は同時に請けないというスタンスでやっているのですが、当時はバイブリーさんと半専属契約を結んでいた事もあり、例外的に請けた作品です。
主に学園関係全般を担当しています。原作からの背景の情報はあまり無かったため、そこからかなりイメージを膨らませて描いています。ただ、アズレンに関しての美術設定の枚数は作品の舞台設定の関係もあり、そこまで多くはなりませんでした。
この作品には別途コンセプトデザインがあり、それがそのまま美術設定として使われている物があります。また、バトルシーンは海上である事。そして、千住工房さんがフォローで入って下さっている関係で自分の持ち分は 40枚程度でした。
アマカノ2 (あざらしそふと)
PC ゲーム作品です。開発元のあざらしそふとさんとはロイヤルガーデンの背景を担当させて頂いた事があり、その繋がりで声がかかりました。
アマカノシリーズは背景にも力が入っているシリーズでもあるので、背景彩色の人は前作の雰囲気を引き継げる人を推薦し、運よく請けて下さりました。
一応モデルになっている街はあるのですが、一応伏せられています。
デザインの方向性については、割とノーマルというか、自分の描きたいように描いたという感じですね。前作の背景を見た感じでは情報量多めかなと感じたので、今作も自分の判断でディティール多めで作画しています。
モデルの街をどの程度参考にしているか…という点については、実際の風景をそのまま採用している背景が1点。実際の風景にかなり似ている背景が 2~3点。その他の物については参考写真を自分で一度バラして組み直しています。しかし、元の雰囲気は継承していると思います。
ちなみに、商店街の背景で「AMA CAFE」の看板が見えると思いますが、「アマカノ → あま… →AMA CAFE でいいか」という感じで、自分は割とこんなノリで看板の文字を考えています。ダメなら指摘があるか塗りの段階で調整されるでしょうしね。
ゲームの背景の仕事はアニメと違い、自分の描いた絵がそのまま画面に出るので、そういう点においてアニメとは違うやり甲斐があります。
天晴爛漫 (P.A. WORKS)
PA WORKS さんからの依頼のアニメ作品です。「凪のあすから」以来となるタイトル単位での依頼という事で楽しみにしていた作品でもあります。
舞台は今から約100年前のアメリカ。しかし、よくよく考えてみるとアメリカを舞台としたアニメ作品ってあまり無いよなぁ、と。しかも100年前が舞台の作品となるとかなり大変な事になるのではないか? と請けてから思ったのでした。
アメリカロケに行けたのはとても良い経験でした。やはりあの大地感は実際に体感しないと分からない物です。何処に行ったかは現時点では言えませんが、今後お話出来るような事があれば記事に出来ればと思っています。
美術設定の作業はまだまだ継続中で、かなり作業量は多いタイトルとなっています。
作業にて一番気を使っているのは、アメリカ人から見て「いやこれは違うだろ」と思われないよう注意する事。とはいえ、あまりビクビクせず作品のテーマに沿ったものに出来ればと思い作業しています。
タイトル未定 (DMM GAMES)
既に作業は終わっているのですが、来年恐らく何かしらの形で世に出るであろう作品です。知人が DMM におりまして、その関係で請ける事になりました。
この作品については情報解禁までお待ち下さい。
2020年の予定
年初から新タイトル2本が動き出します。2020年はまずこの 2タイトルに全力投球となるでしょう。詳細は伏せますが現状お付き合いのある会社との仕事になります。
あとは、銀河英雄伝説、グリザイア・ファントムトリガーといった継続タイトルに動きがあった時対応していく事になります。
それと…、2020年のどのタイミングで動くかは分かりませんが、これらとは別にビッグタイトルが控えています。かなり忙しい年になりそうですね。
ゲームの仕事はごく少量お話を頂いています。
作業に関しては作業時間の短縮を目指したいなぁと。思えば最近は長く作業をするものの、合間に気を抜く時間が多くなってきているように思うのです。体力的な面もあるのかもしれませんが、目の疲労が著しくあまり負荷をかけ続けるのは今後が不安です。細く長くダラダラやるのはあまり効率的では無いと思うので、少しでも良いので「会社で机に向かっている時間」を削れたらと思います。
例えば、コンテやシナリオ、各種資料に目を通すのは自宅でやるだけでも負担は減るかもしれません。腱鞘炎も悩みの種ではあるので、少しは体を労っていきたいな…と。
もう1つ今年の目標としてブログで情報発信をしていければと想っています。目的は1つでは無いのですが、許されると想われる範囲内でやっていければと考えています。
アニメやゲームに関する内容限定にするか、フリーに書いていくかはまだ未定です。
一番やってみたいのは作画配信なのですが、背景って需要ありますかね。時間的負担も大きいと想うので、現時点では難しいかもしれませんがチャレンジしてみたい事ではあります。
それでは皆様今年も宜しくお願いします。