美術設定はアニメ制作の工程の1つです。
設定には「キャラクター設定」「小物設定」といったものがありますが、「美術設定」もその仲間となります。
アニメをよく観る人であれば、オープニングやエンディングでこれらの名前を見た事があると思います。では「美術設定」とは何なのか? という事を詳しく知っている人は少数だと思います。
アニメ作品を純粋に楽しむだけであればそれぞれの仕事内容を知る必要はありません。それでも中には興味を持っている人が居るかもしれない。そんな思いから何も知らない人であっても分かるように、なるべく簡潔に解説ページを作ってみました。
この記事の目次
美術設定の役割
美術設定は「背景に関わる部分のデザインを決めるもの」です。
もっと広義に見れば、その作品の世界観を決めるものとも言えます。アニメにおける背景の占める割合は高く、作品の雰囲気の決め手と言える部分です。その基板になるのが美術設定です。
アニメ制作には大勢の人が関わります。そのためイメージを共有するための資料として設定が使われます。
1クールのアニメで用意される美術設定は 100枚前後になる事が多いです。
美術設定を描く人はどんな人?
- 専属の美術設定描き
- 美術監督
大抵はこの2つのパターンとなります。
割合的には専属で美術設定を描いている人の方が圧倒的に多く、美術監督が美術設定を描くケースはかなり少ないです。
私が業界に入ったのは 1997年頃でしたが、その時には既に社内で分業化がされており、美術監督が美術設定を描いている人は1人しか居ませんでした。
規模の大きい背景美術の会社には大抵専属で美術設定を描いている人が居ます。
また、「アニメーター」「漫画家」「建築デザイナー」が美術設定を担当するというレアケースもあります。ちなみに誰に仕事を依頼するかは制作会社の判断となります。
美術設定の作業に入るタイミング
美術設定は「シナリオ」と「絵コンテ」の間に行われる作業です。
- 企画(プロット)
- シナリオ
- 各種設定(キャラ、小物、美術、メカなど)
- 絵コンテ
- 作画
- 撮影
上記の流れはアニメ制作の工程をおおまかにリストにした物です。美術設定は 3番目の各種設定と同じタイミングで作成されます。
設定関係の資料は主に絵コンテや作画時に使われるので、その前に作業する必要があります。
美術設定は全てのシーンに用意されているわけではありません。優先度の高い所から用意され、カット数が少ないシーンに関しては作業されない事も多々あります。
しかし、絵コンテ後に「やはりこのシーンの美術設定ほしいよね」となるケースもあり、そういう場合には絵コンテの後追いという形で美術設定が用意されます。
美術設定を使う人
美術設定は作画に関わるほとんどの人が使います。
美術監督
美術設定を一番必要とするのが美術監督です。
美術監督は、美術設定を元に美術ボードを描きます。美術ボードは背景スタッフに渡り、それを元に背景が描かれる事になります。
最近では、レイアウトから本番ボードが描かれる事もありますが、そのレイアウトは美術設定を元に描かれている物になります。
背景スタッフ
美術設定と美術ボードを参考にしながら、レイアウトに沿った背景を描きます。
アニメーター
レイアウトを描く時に使われます。
構図は絵コンテに合わせつつ、細部は美術設定を参考にする流れになります。
演出
演出は各話専属の監督のような物で、細かい演出を考え各スタッフに作業内容を指示するポジションです。
絵コンテ
絵コンテは動画を作る際の設計図のような物で、カット毎のキャラクターの動きやレイアウト、台詞やコマ数などが指定されます。アニメーターの方は、この絵コンテを元に作画を行います。
絵コンテの制作にも美術設定が利用されます。しかし、全てのシーンに用意されているわけでは無いので、その場合は絵コンテを描く方が舞台を考える事になります。
絵コンテは演出が担当しますが、作品によっては分担作業となる事もあります。
また、監督直々に絵コンテを描く事もあります。
シナリオライター
作品の基盤になる部分の設定(学園物なら学園の教室とか、ファンタジー作品なら基準になる町並みとか)はシナリオよりも作業に着手する事もあります。
完成した美術設定はライターにも資料として回るのですが「美設のおかげでイメージが膨らみました」と言われた事があります。
しかし、これはレアケースでそんなにある事ではありません。
色々な設定との区分け
設定には色々な設定がありますが、美術設定と対象が被るものもあります。
メカ設定
SF作品においてはメカ設定と美術設定の区分けが曖昧になる事があります。
明確なボーダーは無いのですが、ロボット物であればメカの格納庫など、メカの度合いが高い場所についてはメカ設定担当になる場合があります。
小物設定
主にキャラクターが使う物を設定にしたものです。アクセサリーなどは美術設定と被りませんが、キャラクターの部屋に置いてある物など被る事もあります。
単に部屋に置いてある物は美術設定。キャラクターが直接手に触れる物は小物設定として用意されるケースが多いです。
コンセプトアート
これは設定というよりも企画段階で用意されるもので、作品のおおまかな雰囲気を表現した物になります。美術設定を描く際、コンセプトアートがある場合は参考にします。
背景描きで処理される場合は美術設定。セル描きの場合はメカ設定や小物設定として区分けするケースが多いです。
例えばSF作品の宇宙船の艦橋などはメカ設定、個別の部屋については美術設定となる事が多いです。(最近では銀河英雄伝説など)
美術デザインやセットデザインとの違いは?
結論から言うと美術設定と同じ物です。
自分も「美術デザイン」としてスタッフロールに載っている作品もありますが、これは制作会社の判断でそうなっただけで「美術設定」も「美術デザイン」も同じものになります。「キャラクター設定」と「キャラクターデザイン」の違いのようなものです。
「セットデザイン」も同じものです。実際、ジーベックの作品で「セットデザインで表記したい」と相談を受けた事があります。しかし、「美術」と「セット」では意味合いが違いますし他の美術スタッフ数人に「アニメのセットデザインって何の事か分かる?」と訊いたところ全員「わからん」との事だったのでお断りした経験があります。
理由は単に「キャラクターデザイン、プロップデザイン、セットデザイン」と全てカタカナで統一したかったという事ですが、セットデザインと美術設定では意味が変わってしまいます。
視聴者の混乱を防ぐ意味でも自分のやった作品はなるべく美術設定で統一しています。
美術設定の仕事に就くにはどうしたら良い?
一番の早道は美術設定の部門がある背景美術の会社に入社する事だと思います。他の業界で絵に精通している人であってもまずはそこから入る事をおすすめします。
美術設定は特に美術監督との連携が重要な仕事です。ですので、まずは美術監督が居る背景美術の会社で仕事に必要な知識と技術を身につける事です。
絵さえ描ければ仕事出来るんじゃね? と思われるかもしれませんが、監督からイメージを引っ張り出したり、他のスタッフからの要望を受け入れたり、世界観を統一したりと1枚の絵を作るというよりも、その作品を丸々デザイン出来る力が必要です。
自分が得意なものは描けるけど、興味が無いものは描けないという人は美術設定の仕事は出来ません。美術設定の仕事をこなすには、発想力や描く対象に関する知識も必要になります。
なかなかにハードルが高いですが、1つ作品を任されるようになれば一人前です。そうすれば、背景美術の会社の枠を出て活躍する事も出来るようになるでしょう。